Dr. Shintaro Mori’s official website

Shintaro Mori received his B.S., M.S., and Ph.D. degrees from Kagawa University in 2007, 2009, and 2014, respectively. Since April 2014, he has been with the Department of Electronics Engineering and Computer Science, Faculty of Engineering, Fukuoka University, Japan, where he is currently an assistant professor. His research interests include cross-layer design, information-centric wireless sensor networks, and their application for smart cities. He is an IARIA Fellow and a member of IEEE, ACM, IEICE, ISSJ, and RISP.


研究期間:㋿5–6年度
Fukuoka University Grant Number GW2309

グリーン情報指向無線センサネットワーク実現のための省電力技術の研究開発

本研究開発は無線センサネットワークに情報指向ネットワークを導入した情報指向無線センサネットワーク技術の興起に焦点をあて、とくにサステイナブルな耐災害スマートシティアプリケーションへ応用可能な技術開発を目指す。とくに情報指向無線センサネットワークのグリーン化を実現することを目的とし、その際の懸案事項であるフレームワーク全体の消費電力の削減を図る技術を確立する。また、本研究開発の成果には、本開発システムを将来の社会実装に向けた技術シーズとして位置づけることも含まれ、Proof of Concept(概念実証)として、積極的なテストベッド開発および運用実験を通じた実々装上の課題解決にも取り組む。
キーワード:情報指向ネットワーク;無線センサネットワーク;省電力技術

目 次

Ⅰ. はじめに

無線通信・ネットワークの研究分野では有限の周波数資源(電波利用)を有効に利活用するために、諸先輩方はその技術革新に多大な努力を払ってきた。しかし将来のIoTデバイスの爆発的増大は温室効果ガス排出の直接的な主因と主張することはできないが、サステイナブル社会においては大きな懸念になり得る。これまでに申請者が先駆的に取り組んできた情報指向無線センサネットワークの研究開発についても例外ではなく、高効率・セキュア設計に加えてエネルギー利用効率の改善に関しても並行して技術開発を進めてゆく必要があり、本研究開発の最大の意義である。また耐災害スマートシティへの展開を目指し、その技術シーズとなる要素技術の開発を進捗させることは、本研究分野の基盤構築において必要不可欠である。

本研究開発では、次世代インターネットの改替として研究開発されている情報指向ネットワークを無線センサネットワークに適用させることを最大の特色とし、それは次世代無線ネットワーク技術の要素技術のひとつとして肝要な位置づけにある。また情報指向無線センサネットワークはプル型の構造であるため、従来のプッシュ型システムと比べ、新たなアプリケーションに対する幅広い応用可能性を秘めている点に特徴がある。他方、消費電力が増大する構造上の欠点に対し本研究開発の貢献によりその改善を図る点は緊要である。

次世代無線通信システム(5G/Beyond 5G)上に展開される次世代無線ネットワーク技術として、情報指向ネットワークの無線通信の研究分野への先駆的研究としては、次世代無線通信システムに具備すべき拡張性・自律性・脱炭素に資する要素技術の確立として貢献する。とくに世界に対してプレゼンスの高い会議や論文誌等への研究成果を残すことは、国内では革新的であるが故に研究者人口が少ない当該研究分野における国際競争力を獲得し、さらなる学術的発展を目指すものとして本研究開発の成果は学術的に意義が大きい。

サステイナブル・耐災害スマートシティを実現するために必要な知見・ノウハウに対し、本研究開発により得られる技術シーズおよびその応用は多大に貢献し、その技術シーズを生み出すことが本研究開発の社会的意義と考える。本研究開発に含まれる実環境での評価に耐えられるハードウェアデバイス装置の実装・開発は、産業分野における技術ニーズ、および産学官連携による人々の社会生活を豊かにする事業への先端的技術の導入を目指すために必要な技術開発に先立ち、先見性を与える点において社会的に有意義である。

Ⅱ. 関連する研究および本研究の位置づけ

これまで受けた助成による研究では、本研究開発の基礎となる技術開発として、情報指向無線センサネットワークの基礎研究(高効率・セキュアキャッシング手法の開発)、および耐災害スマートシティへのその応用、既存の無線IoTフレームワークを用いた社会実装を進めてきた。また、世界的に高レベルな国際学会において、本研究課題の青写真を述べた論文が採択された。

Ⅲ. 研究開発項目

グリーン情報指向無線センサネットワークを実現するために、フレームワーク全体の消費電力削減技術を開発し、テストベッドを用いたハードウェア実験に基づく評価を通じて技術シーズとして確立させる。

本研究開発は情報指向無線センサネットワークに焦点を当てている点に新規性を主張する。情報指向ネットワークは次世代インターネットの改替として研究開発され、個々のデータはアドレスではなく名前付きデータとして取扱う点に特徴がある。そもそも情報指向無線センサネットワークにおけるデータの授受は、データ伝送距離の低減(キャッシング設計)、不必要なデータ伝送の削減(プル型ネットワーク設計)、プロトコルオーバヘッドの低減(アドレス不要)できるため、システム全体の消費電力の削減に寄与できる余地があり、同時に電波の有効利用も達成可能であると考える。しかし情報指向無線センサネットワークを構成するノードにおいては、バッテリー制約、計算機資源などのハードウェア資源の制約、有線ネットワークと比較して貧弱な無線通信環境である点があるため、有線ネットワーク(次世代インターネット)を対象として設計されてきた情報指向ネットワークをそのまま無線センサネットワークに対し適用させることは技術課題として解決する必要がある。

㋿5年度の情報指向無線センサネットワークの省電力技術の研究開発においては、従来のフレームワークに基づき設計されたシステムと比較し、提案フレームワークを導入することに伴う消費電力の増大に対し、ネットワーク特性の改善(トラフィック削減、レイテンシ改善)効果を比較検証し、その省電力効果を実証することに焦点を当てる。申請者はこれまでの研究開発を通じて情報指向無線センサネットワークに基づくテストベッド開発、プロトタイプネットワークの構築、および実験室ベースでの基礎評価を実施し、現在中長期運用に向けたテスト実験を進めてきた。そこで得られた知見・ノウハウに基づき、本研究開発において重要な消費電力の視点より、実環境での評価に耐えられるハードウェアデバイス装置の実装・開発を進め、提案手法の有効性を示すとともに、将来の社会実装に向けた実装上の課題の洗い出しを実施する。また本研究開発の研究成果については無線通信・ネットワークの研究者が参画する国内外の学会に速やかに投稿することにより研究の精度を高め、積極的な情報共有を図ることにより次年度の研究開発に向けた提案手法の洗練化を加速させる。

㋿6年度の省電力化技術の開発は、端的に従前センサネットワークに対する情報指向無線センサネットワークの欠点(消費電力増大)に対し利点(ネットワーク特性向上)が上回る点において、目的が達成していることを主張するものである。これは次世代移動通信システムの基地局の消費電力削減技術の開発と同様の視点に則っているため社会的には容認されているが、学術的な貢献という観点においては狭義に技術的な改善を実現したというのはおこがましいと考える。とくに無線センサネットワークにおいては、無線ノードの離脱・追加、移動、伝搬環境の変化による動的な無線環境に対処し考慮する必要がある。このような状況を鑑み、学術的新規性を明確に主張するために、周辺ノードが協力して対処することにより、あたかもそこに実ノードがあるように振る舞う(仮想ノードのように)仕組みを開発する。それにより、消費電力を削減させるためにスリープ動作を具備できるようになることで、情報指向無線センサネットワークの持つ構造上の欠点を克服することを可能とするものである。本研究開発の研究成果については、㋿5年度と同様に積極的な国内外の学会での発表を進めるとともに、その学術的貢献は応用分野を横断する研究テーマであるため、連携する学会に対しても幅広く公表する。

本研究開発を通じて得られる成果として、グリーン情報指向無線センサネットワークを実現するために必要な要素技術として、ネットワーク全体の消費電力削減技術手法の開発がある。また、その実験的評価はスマートシティアプリケーションをケーススタディとした、都市OS等のRestfulデータ共通基盤や既存デバイスとの接続性を含む実々装したテストベッドに対する評価も含んでいる。そのため、本研究開発によって得られた知見および洗い出された課題は、大学における新規性・優位性のある基礎研究成果であり、申請者はその技術シーズを生み出すことは本研究が併せ持つもうひとつの成果であると考える。すなわち、本研究開発は、将来的な社会実装に向けたフェーズ0と位置づけて考えるとき、本研究開発によって得られた成果を発展させ、産業分野における技術ニーズのマッチング(フェーズ1)、産学官連携による人々の社会生活を豊かにする事業への先端的技術の導入(フェーズ2)への足がかりにできると考える。そのような展開を見据え、㋿6年度の研究開発におけるテストベッド実装については、後続する研究開発に必要な知見が提供できるようなテストベッド開発・評価を実施する。

Ⅳ. 研究結果

提案手法における消費電力モデル(センサノード・リレーノード)
図 1 提案手法における消費電力モデル(センサノード・リレーノード)

提案手法による消費電力に関する計算機シミュレーション結果
図 2 提案手法による消費電力に関する計算機シミュレーション結果

本研究開発の成果には、本開発システムを将来の社会実装に向けた技術シーズとして位置づけることも含まれ、Proof of Concept(概念実証)として、積極的なテストベッド開発および運用実験を通じた実々装上の課題解決にも取り組んだ。グリーン情報指向無線センサネットワークを実現するために、フレームワーク全体の消費電力削減技術を開発し、以下で述べる通り、テストベッドを用いたハードウェア実験に基づく評価を通じて、技術シーズとして確立させることができた。本研究開発は情報指向無線センサネットワーク(information-centric wireless sensor network; ICWSN)に焦点を当てている点に新規性を主張する。そもそもICWSNにおけるデータの授受は、データ伝送距離の低減(キャッシング設計)、不必要なデータ伝送の削減(プル型ネットワーク設計)、プロトコルオーバヘッドの低減(アドレス不要)できるため、システム全体の消費電力の削減に寄与できる余地があり、同時に電波の有効利用も達成可能であると考えている。

㋿5年度のICWSNの省電力技術の研究開発においては、従来のフレームワークに基づき設計されたシステムと比較し、提案フレームワークを導入することに伴う消費電力の増大に対し、ネットワーク特性の改善(トラフィック削減、レイテンシ改善)効果を比較検証し、その省電力効果を検証した。まず、図1に示すように、提案手法の商品電力に関するモデル化について、ノードはアクティブ、送信、受信、スリープの4つの状態を想定する。アクティブ状態では、センシング、センシングデータ生成、キャッシュなど、計算・分析などのより高度なタスクを実行する。データの無線伝送は計算機に演算より大きな消費電力を求める一方、スリープ状態は最小のエネルギー消費で待機する。

図2に先述の消費電力モデルに従い求めた数値例を示す。コンピュータシミュレーションはC++言語で実装開発し、シミュレーションパラメータは実測したハードウェアデバイスの数値に基づき設定した。送信・転送する単位時間あたりのデータ量νとλに対し、0、10、20、30、40、50の場合、提案手法を用いることにより、37.2%、35.4%、33.7%、32.0%、30.2%、28.5%の改善が得られたが、消費電力は3.62、3.30、3.08、2.91、2.78、2.67倍になった。消費電力が増大した理由については、キャッシュされたデータをより広範囲に分散させるために、提案手法は多くのエネルギーを消費するためである。この点に関して、一般的なデータキャッシュポリシーでは、データの鮮度と人気度を考慮し、取得されるデータは不均衡になるため、本論文で提示した完全にランダムなシナリオの結果と比較して、実用的な設定では結果が改善されるはずである点を補足する。一方、ICWSNシステム全体の総エネルギー消費量については、提案方式はデータ生成およびデータ検索環境の周波数が低い場合に有効であることが示されている。

㋿6年度の研究開発に関して、無線センサネットワークにおいては、無線ノードの離脱・追加、移動、伝搬環境の変化による動的な無線環境に対処し考慮する必要がある。このような状況を鑑み、学術的新規性を明確に主張するために、ブロックチェーンに基づくキャッシング手法に対し省電力化技術について検討した。提案手法にブロックチェーンを導入する理由として、中央集権化された信頼性の高いノードを必要とせずに、分散型で追跡可能かつ不変の台帳を提供できる点がある。一方、ブロックチェーンにおけるデータ認証手続きにおいては、PoW(Proof of Work)に基づく膨大なコンピュータ計算(マイニング作業)が求められるため、ハードウェアに制約のある無線ノードでは対応できない。

上述の背景を踏まえ、提案手法はPoET(Proof of Elapsed Time)に基づく軽量化手法を採用した。提案手法では、各ノードにタイマーを具備し、指定された待ち時間が経過した最初のノードを勝者としている。提案手法のデータ認証方式は、オリジナルのPoET方式とは異なりノード間でコーディネータの役割を交代している。それにより、ノード間の公平性が確保されるとともに、コーディネータによる単一障害点が排除されている。具体的な処理手順としては、検証者が署名付きリクエストメッセージをブロードキャストし、コーディネータがメッセージIDを検証した上で、最新のブロックインデックスとランダムな待機時間を返信する。検証者は待ち時間が経過するまで待機し、勝者としてブロック承認の特権を得るノードを決定する。当該ノードは、検証済みのブロックを識別子と有効期限時刻の証明を付してブロードキャストし、他のノードはそれをブロックチェーンに追加する。同じ待ち時間で複数のノードが勝者となった場合、ブロックチェーンが分岐する可能性がある。しかし、提案する方式は、地域スマートシティのエリアで展開されるため、そのような状況は十分に小さいスケールであるため無視できると考えている。

提案手法の堅固性に関しては、悪意のある検証を行うことにより堅牢性が成立しなくなるが、提案手法では抽選に基づき検証ノードを交代することにより解決している。また、悪意あるノードは相互に特権的であるため、ブロックチェーンにおける勝者ノードの履歴を分析することが可能である。一方、提案手法の消費電力に関しては、検証者が待機中にアイドル状態またはスリープ状態に切り替えることができるため、必要なコンピュータリソースとエネルギー消費の両方を削減可能である。具体的には、PoWとPoETの合意形成方法の処理時間が同じであると仮定すると、エネルギー消費量は30.7%(アイドル待機時)と59.0%(スリープ待機時)削減できることを明らかにした。

本研究開発を通じて得られる成果として、その実験的評価はスマートシティアプリケーションをケーススタディとした、都市OS等のRestfulデータ共通基盤や既存デバイスとの接続性を含む実々装したテストベッドに対する評価も含んでいる。そのため、本研究開発によって得られた知見および洗い出された課題は、大学における新規性・優位性のある基礎研究成果であり、申請者はその技術シーズを生み出すことは本研究が併せ持つもうひとつの成果であると考える。そのような展開を見据え、テストベッド実装については、後続する研究開発に必要な知見が提供できるようなテストベッド開発・評価を実施した。

具体的には、スマートシティ・アズ・ア・サービス・プラットフォームとして、将来のスマートシティアプリケーションのためのICWSNの実装開発および評価した。ここでは、信頼性が高く、ゼロタッチのテストベッドデバイスを実装し、テストフィールドを開発したうえでネットワーク性能を評価した。無線通信システムとしては、広帯域通信のために、ミリ波帯通信に基づいて構築した。また、実装したプラットフォームを用いてネットワーク性能の実験結果を示し、これらの実証実験を通じて提案手法の実現可能性を示すことができた。

Ⅴ. 結 論

本研究開発の成果には、本開発システムを将来の社会実装に向けた技術シーズとして位置づけることも含まれ、積極的なテストベッド開発および運用実験を通じた実々装上の課題解決にも取り組んだ。グリーン情報指向無線センサネットワークを実現するために、フレームワーク全体の消費電力削減技術を開発し、テストベッドを用いたハードウェア実験に基づく評価を通じて技術シーズとして確立させることができた。今後の展望として、本研究開発に含まれる研究成果を発展させ、産業分野における技術ニーズ、および産学官連携による人々の社会生活を豊かにする事業への先端的技術の導入を目指している。そこで、継続研究を進捗させるために必要な技術開発を目的として、応用先ネットワークの要素技術開発に関して、4件の競争的資金に対し研究代表として申請を行い、報告書作成時点において2件の採択が決定している。

謝 辞

A part of this work was supported by Fukuoka University Grant Number GW2309.

研究成果

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