高効率・高信頼情報指向無線センサネットワークを実現するための協力通信の研究
目 次
Ⅰ. はじめに
Ⅰ.A. 背 景
将来のスマートシティを実現する要素技術のひとつとして無線センサネットワーク(WSN; wireless sensor network)があり、多様なデバイスとそこから得られる多量のデータを活用したアプリケーションサービス(例えばスマートシティ)への応用が期待されている。スマートシティを構成するひとつの利用シナリオとして、スマート農業を想定する場合、WSNデバイスは屋外に設置され、そこでは、劣悪な無線通信環境、電源確保、またノードの移動性や電源喪失に伴う動的なネットワーク環境など解決するべき課題が散在される。このような問題は、多様な分野で普及が進んでいるIoT(Internet of Things)技術が、農業分野への展開が遅れている要因である。
申請者は、これまでの研究において、スマートシティ・アプリケーションを支える無線通信・ネットワーク技術の研究をすすめてきた。提案手法では、情報指向ネットワーク(ICN:Information-Centric Networking)をWSNに導入した情報指向無線センサネットワーク(ICWSN)を開発し、いくつかのテストベッドを実装のうえ実証フィールドにおいて検証をすすめてきた。ICWSNは、名前付きデータを用いることによるアドレスに依存しないデータ配信・取得、キャッシング機能によるデータ消失や信頼性の改善、TCP/UDP/IPレイヤにICNレイヤをオーバレイ実装することによる抽象化によるプロトコルオーバヘッドの改善が得られる。また、これまでの研究を通じて洗い出された、ICWSNを実環境に適用させる際に生じる先述の課題に対し、本研究開発では、後述する協力通信技術により解決を図るものである。
Ⅰ.B. 技術面での独創性およびアイデアの斬新な点
本研究開発の技術面での独創性を有する部分は、有線ネットワークの技術として、次世代インターネット技術であるICNを、無線ネットワーク分野のWSNに適用させたICWSNの研究分野を開拓することにある。スマートシティの研究分野においては、関連研究では机上検討に終始しており、必ずしも現実的な環境での利用が可能であることが明らかになっていない。ICWSNの協力通信方式は、いまだ開発途上であり、本研究開発が考える手法は新規性が高い。また、本研究開発で用いるスマートシティ・アプリケーションを想定した検証においては、それらを統合的に取り扱えるプラットフォームは少なく、その結果・成果は後続する研究に対しても有意義であると考える。本研究開発の特徴としては、先述したアイディアに従い申請者がこれまでに取り組んできた研究開発に基づき、スマートシティの分野への応用に取り組む点も挙げられる。そもそも、WSNに対してICNの導入に挑戦する試みも挑戦的であり、キャッシング手法はICNにおいては核となる要素技術であるため、本研究開発を進めることは意義がある。
ICNおよびWSNのいずれの分野においても、協力通信方式として、NC符号を用いる手法においては、単に複数のパケットをビットごとの排他的論理和(XOR)で合成し分離するものである。本研究開発は、そのような符号化データフレームに対し、ICWSNの環境において、PHYレイヤで高効率に取り扱うために、建設的干渉除去技術および階層変調方式の導入を試みることは、他の研究では類をみない斬新な点である。また、高効率だけでなく高信頼化を図るために、代理キャッシング手法を導入し、それを実証実験によって実現性を示す点は、他の研究では行われていない差異である。
Ⅰ.C. 波及効果および発展性
本研究開発により、ICNおよびWSNをスマートシティへ応用し実現可能である点を示すことにより、他のIoTシステムに対しても同様の手順で導入できることが期待できる。とくに、IoTシステムの適用領域については、スマートシティにとどまらず、スマートホーム、医療、ヘルスケア、製造業(インダストリー4.0)、農業・林業・漁業など幅広い分野への活用が検討されている。さらに、5GおよびAfter/Post/Beyond 5Gの研究においては、IoT/M2Mに基づくセンサネットワークに対しても導入されることが期待されている。そのため、本研究開発のプラットフォームは幅広い分野に対し利活用が可能であることを実証できる。例えば、スマート農業だけでなく、災害時の被災地域ネットワーク(地震、津波、水害、土砂崩れ、河川の氾濫等)への適用も十分考えられる。すなわち、平常時はスマートシティのアプリケーションとして、災害時には防災・減災に寄与するためのシステムとして、同一システムに両機能を搭載することが可能である。
Ⅱ. 関連する国内外の研究動向
IoT技術が日常生活に広く普及するとき、人々の興味は「エンド・ツー・エンド」から「コンテンツ」にパラダイムしているのは明白である。従って、ICNの導入は必然であり無線ネットワークに対しても例外ではない。関連研究においても、申請者と同じ視点に立って研究成果をまとめている。また、ICNの通信はブロードキャスト方式に基づいているため、それを導入することによりトラフィックが増加し、ネットワークが混雑する。それを緩和するための符号化データ伝送方式として、NC符号化が検討されている。一方、PHYレイヤでの検討に関しては、信号を重畳することによる新しいNC手法を提案している。いずれの手法に関しても、ICWSNを支えるPHY/MACのプロトコルとしては開発途上であり、申請者]はPHYでの信号重畳を最適化させ、ブロードキャスト通信における干渉除去に寄与し、ノードの協力方式を発展させる試みは、調査した限りではみられない研究である。
Ⅲ. 研究開発項目
本研究は、次の2点に焦点をあて、プロトコル設計、計算機シミュレーション評価、および簡易なテストベッドを用いた基本的な実証評価を実施することを目的とする。
Ⅲ.A. ICWSNを支えるPHY/MACレイヤにおける協力通信手法(㋿7–8年度)
ICWSNの通信方式はブロードキャスト方式であり、それを支える無線通信技術に焦点を当てた協力通信方式を開発する。MACレイヤ技術として、ネットワーク符号(NC: Network Coding)を施した符号化データフレームを用いる手法が検討されている。それを高効率に無線伝送するために、建設的干渉除去技術、階層変調方式を用いる協力通信手法を提案した。いずれの提案に関しても、PHYレイヤにおけるNC方式の拡張などを含んでおり、机上検討の域を脱しきれていない点に研究開発の余地がある。従って、本研究開発において、両手法を精密に設計し評価のうえ発展させる。
NC符号化データを無線伝送する場合、建設的干渉除去技術および階層変調方式を採用した協力通信手法について、設計および基礎評価を行う。とくに後者に関しては、まだコンセプトのレベルであり、具体性に欠けているため、方式を精密に設計する。また、代理キャッシング手法について、具体的な実装方法など、詳細なプロトコル設計を行うことにより、ノードデバイスへの実々装に備えた設計を行う。先述の設計および基礎評価結果に基づき、PHY/MACレイヤにおける協力通信方式について手法を確立する。
Ⅲ.B. 動的ネットワーク環境における代理キャッシング手法(㋿9年度)
センサノード(SN: Sensor Node)とリレーノード(RN: Relay Node)を組合わせたICWSNにおいて、キャッシングデータを協力通信で高信頼化させる手法を提案した。代理キャッシング方式と呼ぶ提案手法は、RNがSNの代わりにデータ応答を対応することで、ネットワーク全体の信頼性の改善を図るものである。一方、現実的な利用シナリオを考える場合、動的なネットワーク環境への対応が不可欠であり、机上設計・評価にとどまらない実証的な実験検証を行う。それにより、提案手法の実現可能性と、机上検討では明らかにされない、スマートシティへの展開に際する課題の洗出しを行い、それに基づいた具体的な設計を研究開発する。NC符号化データを無線伝送する場合、建設的干渉除去技術および階層変調方式を採用した協力通信手法について、設計および基礎評価を行う。とくに後者に関しては、まだコンセプトのレベルであり、具体性に欠けているため、方式を精密に設計する。
謝 辞
A part of this work was supported by SCAT Grant Number JP25K00000.
研究成果
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