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Shintaro Mori received his B.S., M.S., and Ph.D. degrees from Kagawa University in 2007, 2009, and 2014, respectively. Since April 2014, he has been with the Department of Electronics Engineering and Computer Science, Faculty of Engineering, Fukuoka University, Japan, where he is currently an assistant professor. His research interests include cross-layer design, information-centric wireless sensor networks, and their application for smart cities. He is an IARIA Fellow and a member of IEEE, ACM, IEICE, ISSJ, and RISP.


研究期間:㋿1–5年度
JSPS KAKENHI Grant Number 19K20261

コンテンツ指向型センサネットワークにおけるセキュアキャッシング手法の研究開発

今日、無線センサネットワークは我々の身近な領域に幅広く普及し、そのセンシングデータの取り扱いに関して、莫大な量であるがゆえに効率化が求められているとともに、デリケートな個人情報をセキュアに取り扱う必要性にも迫られている。本研究では、コンテンツ指向型ネットワークと呼ばれている場所(アドレス)に依存しない新しいネットワークアーキテクチャを無線センサネットワークに導入することに焦点をあてる。とくに、それを実現するために必要不可欠なキャッシング手法に対して、ブロックチェーンに基づく分散台帳による相互認証の考え方を導入する。本研究では、キャッシングデータの取り扱い方、合意形成に貢献したノードに対するインセンティブ、センシングデータに基づきイベント発生時の動作の定義の3点について、ブロックチェーンに基づく新たなフレームワークを開発する。
キーワード:情報指向ネットワーク;無線センサ・アクチュエータネットワーク;ブロックチェーン

目 次

Ⅰ. はじめに

近年、モノのインターネット(Internet of Things; IoT)は、スマートホーム、防犯システム、ヘルスケアなど多様な分野に展開され、私たちの生活に深く浸透してきている。それがゆえに集められるセンシングデータはデリケートな個人情報を含んでおり、センシングデータの伝送報伝送は高効率だけではなくセキュアに行わなければならない。今日のIoTを支えるシステムでは、センサノード(例:ウェアラブル、個々のセンサ)がクラウドサーバにアクセスする場合、無線センサネットワークとインターネットの両ネットワークはゲートウェイを仲介している。一般に、センサノードと比べて、安価で非力なノードを大量に散布するわけではないので、ゲートウェイは高性能なハードウェア装置が選択可能である。すなわち、センサノード、ゲートウェイ、クラウドサーバの3階層モデルを考えるとき、ゲートウェイが情報の取捨選択、加工、その他の処理を積極的に行うことができる(エッジコンピューティングに類似したコンセプト)。従って、有限のネットワーク資源・周波数資源の節約を図ることができ、将来の膨大なトラヒックを効果的に処理することができる。

このような状況では、もはやデータをどこから取得するかは問題ではなく、何のデータを取得するかという点が問題の核心である。コンテンツ指向型ネットワーク(Information-centric network; ICN)は、次世代のインターネットアーキテクチャとして研究開発が進められている。現在の適用領域としては、インターネットを構成するコアネットワークの部分が対象になっている。しかし、IoTの末端部分(ラストワンマイル)の無線ネットワークに対しても、コンテンツ指向型ネットワークのコンセプトを拡大させ、一貫したネットワークアーキテクチャを実現させるべきである。あわせて、コンテンツ指向型ネットワークを無線ネットワークに適用する場合、情報提供に際して場所に依存しない構成を実現できため、ノードが移動することが前提にある無線ネットワークにおいては大きな利点になる。そのため、無線センサネットワークにコンテンツ指向型ネットワークを導入することは有意義である。

近い将来、5Gによる無線通信サービスが提供され、ますますIoTが日常生活に溶け込み、膨大なセンシングデータをセキュアに取り扱う要求は高まる。すでに現代社会においてもスマートホン等のモバイル端末でインターネットにアクセスするとき、Google、Facebook、Amazon等の成熟した共通のサービスに人々の興味は偏っており、「エンド・ツー・エンド」から「コンテンツ」にパラダイムしているのは明白である。そのため、既存のIPネットワークに基づくホスト指向型ネットワークに代わり、コンテンツ指向型アーキテクチャに基づくネットワーク設計の導入するべきであり、そうなることは必然であると考えられる。そして、無線ネットワークに対しても例外ではない。そのような将来の世界を思い描いたとき、単にコンテンツ指向型ネットワークを導入するだけでは不十分であり、セキュアなフレームワークに仕上げる必要があると考えた。以上を踏まえて、応募者はコンテンツ指向型無線センサネットワークを設計する場合における、最重要課題のキャッシング手法の開発を行ってきた経験に基づき、ビットコイン等で核となるブロックチェーンを導入することを着想した。

先述した状況を鑑みて、応募者はセンサノードとゲートウェイに焦点をあて、無線センサネットワークに対してコンテンツ指向型ネットワークを導入するとき、そのキャッシュデータをセキュアに取り扱えるようにするフレームワークを開発することを最大の目的とする。他研究ではキャッシングデータを効率的に取り扱う手法に関心が集まっているが、本研究では効率面に加えてキャッシュデータをどのようにしてセキュアに取り扱うかという問いに答えたいと考える。そこで、キャッシングデータの管理方法として、ブロックチェーンに基づく分散台帳を導入することにより、従来のキャッシング手法では実現できなかった、第三者によるキャッシュデータを書き換える(汚染させる)攻撃に対応できるようになる。応募者がブロックチェーンを導入する動機は、無線センサネットワークと同様に自律・分散・スケーラブルな構成を実現できる点にある。とくに、ブロックチェーンの合意形成アルゴリズムを用いることにより、無線センサネットワークを構成するセンサノード同士に信頼関係がなくても利用可能であり、集中制御によらない相互認証が可能である特徴を有する。

Ⅱ. 関連する研究および本研究の位置づけ

将来の無線ネットワークシステムに対してコンテンツ指向型ネットワークを導入する点について、先行研究においても応募者と同じ視点に立って近年の研究成果をまとめている。例えば、セルラネットワークにおける基地局に導入する手法が考案され、仮想化に基づく発展がなされている。汎的なDONA(data-oriented network architecture)とNDN(named data networking)においても同様の状況である。その他の研究動向として、ユーザの協調キャッシング手法、キャッシュするデータの選択手法、サービス品質を保証した映像ストリーミング配信のための動的キャッシング手法が考案されている。結論として、本研究に関連する研究動向を俯瞰するとき、セキュアなキャッシング手法については必要になることは自明であるが先行研究もなく、本研究は先駆的な位置づけにある。

Ⅲ. 研究開発項目

先述した通り、応募者は無線センサネットワークに対してコンテンツ指向型ネットワークを導入するとき、そのキャッシュデータをセキュアに取り扱えるようにするフレームワークを開発することを最大の目的としている。これを実現するためには、⑴キャッシングデータ、⑵合意形成に貢献したノードに対するインセンティブ、⑶センシングデータに基づきイベントが発生した場合の動作の定義、の3項目に関する情報をブロックチェーンに記録する。これらの3項目については、ブロックチェーンにより実現できる機能を無線センサネットワークに応用する場合のシナリオとして問題設定を行い、それらの解決を図る。

Ⅲ.A. キャッシングデータの取り扱い方(コンテンツデータの分散台帳による管理)

コンテンツ指向型ネットワークでは、IPネットワークにおけるパケットに代わり、ネーム・データ・オブジェクトと呼ばれる単位でコンテンツを取り扱う。両者の大きな違いは、ネーム・データ・オブジェクトのヘッダにはタグと呼ばれるコンテンツの種類・性質などの情報のみ記述され、IPアドレスのような情報は含まれていない。そのため、情報を要求する側はコンテンツ指向型ネットワークに対して、どのような情報が欲しいかというリクエストを投稿することで、それに合致する情報を受領する。応募者のこれまでの研究では、そのようなネットワークシステムを開発する場合に必要なプロトコル設計、計算機シミュレーションに基づく評価、および部分的にテストベッドを製作した評価により基礎特性を評価した。一方、本研究では、これまでの研究開発の結果を踏まえて、実際に動作するテストベッド開発を行い、実装に係る問題点の洗い出しと解決を試み、新たな手法の開発を行う。

Ⅲ.B. 合意形成に貢献したノードに対するインセンティブ(閉域の独自ビットコインの導入)

ブロックチェーンに基づく分散台帳システムを維持するためには、ノードが相互にデータの検証を行うマイニング処理を行う必要がある。マイニングにはいくつかの合意形成アルゴリズムがあるが、いずれに対してもノードの計算機の演算資源を必要とする。これまでの応募者の検討では、簡単化のためにすべてのノードがマイニングに無償(ボランティア)で協力することを想定して設計をしてきた。一方、現実的な状況を考慮した場合、成功報酬の授受によりインセンティブを与えるメカニズムが必要である。そこで、本研究では、そのインセンティブを支えるフレームワークに対してもブロックチェーンの導入を考えている。

Ⅲ.C. イベント発生時の動作の定義(スマートコントラクトに基づく契約定義)

将来の無線センサネットワークのスキームを概観するとき、センサノードから集めたデータをクラウドに集約するだけでなく、そのセンシングデータに基づきアクチュエーターやロボットを用いたアクションが求められる。例えば、ヘルスケアにおいてウェアラブルが集めるデータにより利用者の健康上の異常が観測される、ホームネットワークにおいて火災が検知される、スマートビルディングにおいて不審者の侵入を検知する等が挙げられる。このようなイベントが発生した場合、緊急通報を行うだけでなく、アクチュエーターやロボットによる初期動作などのアクションが求められる。このイベント・アクションの契約情報に対して、ブロックチェーンが持っているスマートコントラクトと呼ぶフレームワークに実装することを考えている。

Ⅳ. 研究結果

セキュアキャッシングを実現するためのブロックチェーン構成とICNパケット様式
図 1 セキュアキャッシングを実現するためのブロックチェーン構成とICNパケット様式

実装したコーディネータとマイナーにおいて内部遷移フローと外部メッセージに対する処理手順
図 2 実装したコーディネータとマイナーにおいて内部遷移フローと外部メッセージに対する処理手順

テストベッドを用いた動作検証中の表示画面
図 3 テストベッドを用いた動作検証中の表示画面

新たなブロック認証システムの概観
図 4 新たなブロック認証システムの概観

投票方式に基づくコンセンサス手法におけるデータ処理手順・ハッシュチェーンによる署名の概観
図 5 投票方式に基づくコンセンサス手法におけるデータ処理手順・ハッシュチェーンによる署名の概観

開発したノードデバイス
図 6 開発したノードデバイス

HTTP/ICNプロトコル変換手続き
図 7 HTTP/ICNプロトコル変換手続き

テストネットワークモデル
図 8 テストネットワークモデル

ユーザ端末の表示例
図 9 ユーザ端末の表示例

本研究では、ICNと呼ばれている場所(アドレス)に依存しない新しいネットワークアーキテクチャを無線センサネットワークに導入することに焦点をあてる。このとき、とくに、それを実現するために必要不可欠なキャッシング手法に対して、ブロックチェーンに基づく分散台帳による相互認証の考え方を導入することを目的とする。ICWSNにおけるキャッシュデータをセキュアに取り扱えるようにするフレームワークを開発することを最大の目的としている。これを実現するために、ブロックチェーンにより実現できる機能を無線センサネットワークに応用する場合のシナリオとして問題設定を行い、それらの解決を図る。具体的には、プロトコル設計、計算機シミュレーション、および簡易なテストベッドを用いた基本的かつ初期的な評価を行う。それにより、ブロックチェーンを無線センサネットワークに導入するために浮上する問題点を洗い出し、それを解決する糸口を提供することを図る。

Ⅳ.A. セキュアキャッシング手法

積極的なオフパスキャッシングよるキャッシング対象ノード数の増大は、セキュアデータの不必要な拡散という点において課題が残る。そこで自律分散ネットワークとして設計されたICWSNへの親和性を鑑み、ブロックチェーンに基づく分散台帳の導入を試みた。ブロックチェーンは集中制御によらない相互認証が可能なため、自律・分散・スケーラブルな構成を実現でき、合意形成アルゴリズムは構成ノード同士に信頼関係がなくても成立するので、ICWSNにおけるアドホックネットワークとしての側面にも適している。そこで、セキュアキャッシング手法の中でも第三者によるキャッシュデータが書き換える(キャッシュ汚染)攻撃に対処可能な手法を提案した。本手法は計算機シミュレーションおよび試作機を用いて評価した(図1–3)。

Ⅳ.B. ブロック認証手法の改良

前節で使用したブロックチェーンのコンセンサス手法は、ビットコインや代替の典型的な暗号通貨で用いられているPoW(Proof-of-Work)方式を採用している。すわなち、新規ブロックに対しブロックチェーンを共有するメンバ間でマイニングに基づきコミットする。しかしブロック認証プロセスでは多量の演算(特定のハッシュ値を得るための総当たり計算)を行う必要があるため、ハードウェアに制約があるWSNを構成するデバイスには適しておらず、その実現性の面において課題がある。

そこで投票ベースの新たなブロック認証手法を提案した。提案手法は、Validatorと呼ぶ検証ノードの大多数の承認によってブロックチェーンに追加するべきブロックを決定している点を新規性として主張し、UAVはデータ収集者としての役割だけではなく、Validatorとしても働く点に特徴がある。またUAV間のアドホック無線伝送の過程でブロック認証が可能であり、ビットコインのリワードやイーサリアムのガスに相当するブロック認証に必要な取引手数料の交換機構も不要である利点も有する。またブロックに対してハッシュチェーンに基づくブロック署名手法、およびプロトコル設計についても検討した。また、本手法の画期的な理由として、本手法を採用することにより、本件研究開発において、当初計画で想定していた設計に頼らなくても、それだけですべてをまかなえる点にある。

Ⅳ.C. デバイス開発と評価

実フィールドでの実証実験・評価に先立ち、前節で実装した試作機と同じ構成(Raspberry Pi 4(Quad-core CPU(ARMv8),8GB RAM, Raspbian(buster)OS))を用いてテストデバイスを実装した。試作機はRaspberry Pi 4にLTE接続のため4GPiを組合わせ、ICNプラットフォームはICN/CCNベースのオープンソースソフトウェアであるCeforeを使用した。Ceforeでは、cefnetdおよびcsmgrdと呼ばれるデーモンプロセスにより、前者はパケット転送機能、後者はキャッシュ機能を提供する。センシングデータとして画像データを想定し、OpenCVから制御するUSB3.0で本体に接続したウェブカメラ(Logicool社製C270n)を用いて画像撮影のうえ、画像ファイルはローカルストレージに保存するとともにCeforeに対しcefputfileコマンドを用いてコミットする処理をPython言語で実装した。一連の処理プログラムはcronを用いて毎分定期実行させ、cefputfileコマンドにより登録されたデータはcsmgrdデーモンプロセスによりテストベッド上のRAMにキャッシュされ、300秒を過ぎたキャッシュデータはFIFOアルゴリズムに従い削除されるように設定した。

本試作デバイスを実験室において長期運用テストを行ったところ、長時間の安定稼動に課題が残ることが明らかになった。具体的には、連続稼働中に突然ネットワークが切断される、定期実行が突然に動作しなくなる、外部ネットワークからのリモートアクセス中に本体がフリーズする症状が生じた。その問題を解決するために、産業用の組込みコンピュータとして実績のあるアドバンテック株式会社のMIC-710 AIX(Dual-core CPU(ARMv8.2),8GB RAM,Ubuntu 18.04 with Jet Pack OS)に換装することにより抜本的な解決を図った(図6)。MIC-710 AIXのプラットフォームは、NVIDIA Jetson Xavier NXを採用し設計されているため、これまでの試作機で実装した環境を容易に移植することができる利点がある。また、既存プロトコルとの互換性に関して、ユーザがICWSNのプロトコルに対応していない場合に備えて、ゲートウェイがエンドユーザとブローカの間でセンシングデータの受渡しや制御メッセージの交換を行う仕組みを実装した。図7にHTTP/ICN間の手続きに従い,本稿ではPerl言語を用いて、Gateway上にCGI(Common Gateway Interface)として実装した。

開発したノードデバイスの実証評価のために、図8(a)に示すネットワークを構築した。併せて、図8(b)に示すようにBrokerおよびGatewayにFIBを設定し、BSおよびBrokerにキャッシュ機能を具備した。とくにBrokerに対しキャッシュ機能を持たせることにより、2回目以降のデータ取得に関して系においてボトルネック区間である無線区間のデータ伝送を削減できるため、キャッシュデータの提供による安定したコンテンツ取得が実現できる点が示されている。なお、レイテンシ(Ping値)は、82.9 ms(BS—Broker)、0.399 ms(Broker—Gateway)、44 ms(Gateway—End-user)であった。図9はICWSNに対応していない端末において、互換性を担保する仕組みを提供するプログラムを介してアクセスした結果である。結果より所望通りの動作が実現できていることが示されている。

Ⅳ.D. 提案手法を支える通信方式の検討

提案ICWSNを耐災害スマートシティに導入することを想定し、それを支える下位レイヤプロトコルの検討を行った。具体的には、MAC(Media Access Control)レイヤにおいて、上位レイヤのパケットを複数のフレーム分割する場合、消去訂正符号化されたサブフレームを用いることにより、すべてのサブフレームが揃わなくても元のパケットを復元できることを目指し、基礎的な評価を行った。とくに欠損したサブフレームを近隣ノードから取得することにより、再送手続きを削減できる点が特徴である。また適用先アプリケーショにおいて、チャネル容量に関する問題を解決するために、送信側の協力通信とデュアルバンド対応ノードを利用することを検討した。両技術を導入することにより、計算機シミュレーションの結果、従来のWSN向け無線通信システムでは対処できないと想定していた、多数ノードが散在する環境におけるシナリオに対し実現可能性を示した。また、実際の耐災害スマートシティのソリューションとして、河川モニタリングシステムの画像取得部分に対し、ICWSNの適用可能性を評価するために本テストベッドをベースに改良し動作検証を実施した。

Ⅳ.E. ネットワーク符号・肯定的干渉によるICWSNを支える無線ネットワークプロトコルの検討

ICWSNの下位レイヤにおいては、フラッディング(ブロードキャスト)に基づき無線データ伝送がなされる。そのため、ICNベースのネットワークプロトコルと親和性の高い下位レイヤプロトコルとして、新たな無線通信技術の開発が不可欠である。そこで、協力通信に基づくICWSNを支えるMACレイヤ・PHYレイヤ技術を検討した。提案手法は中継ノードによる重複伝送によるパスダイバーシチの効果を狙い、ネットワークコーディング(NC; Network Coding)手法による伝送効率の改善を図った。本貢献としては、中継ノードの他にアシストノードが介在するリレー伝送において、それらのノード周辺に生じるパケット衝突に対し、肯定的干渉(Constructive Interference)現象に基づく干渉の低減を図る点にある。一般的なWSNにおいては、デバイス簡素化のため、積極的な端末間同期・衝突回避の機構を簡略化されうる。このとき、ある特定エリアにおけるNCデータ干渉は、複数の送信側ノードからのベースバンド信号の重ね合わせを受信側ノードが検出できれば、その干渉の影響を無視できる。すなわち、許容範囲内の位相のずれた複数の搬送波信号を重ね合わせることにより、受信側において高い確率で正しい検出が可能となる。とくに、ICWSNのフラッディング通信に対して本技術は特に有効であると考え、深刻な衝突がないパケット伝送の実現に向けて組入れた。

Ⅳ.F. ICWSNによるグリーン化の効果

本研究開発の導入によって得られる副次的な利点としてシステムのグリーン化が挙げられるICWSNにおいては、個々のデータに対し、アドレスではなく名前付きデータとして取扱う点、キャッシング技術によるデータ転送量削減・伝送遅延低減に特徴がある。そのため、ICWSNにおけるデータの授受によって、データ伝送距離の低減(キャッシング設計)や不必要なデータ伝送の削減(プル型ネットワーク設計)により、システム全体の消費電力の削減に寄与できる余地があることが明らかとなった。また付随的に、無線データ伝送量の削減による電波の有効利用も達成可能である。しかしICWSNを構成するノードデバイス(末端)では、バッテリー制約、計算機資源などのハードウェア資源の制約、有線ネットワークと比較して貧弱な無線通信環境という状況の中、有線ネットワークを対象として設計されてきた技術を、そのままICWSNに適用させることは困難であり解決するべき技術課題が残っている。本研究課題を通じて、本節で述べる新たな研究テーマを生み出す成果を得た。

Ⅴ. おわりに

次世代インターネット技術として注目されている情報指向ネットワークを無線センサネットワークに導入する場合に必須であるセキュアデータ共有技術を実現するために、ブロックチェーンを用いた手法を開発した。提案手法は検証者の投票によるデータ検証方式を採用することにより、ハードウェアに制約のあるデバイスでも展開できる設計としている。また、テストベッドの開発および実機を用いた実証実験を通じた評価を行い有効性の検証を実施した。

本研究開発が対象とする情報指向無線センサネットワークの研究領域は新規性が高い。本研究開発では、ブロックチェーンを用いたセキュアキャッシング手法だけでなく、提案手法を支える周辺技術(パケット分割・協力通信・グリーン化)の検証を、ハードウェア装置を用いた実証実験も併用して実施することにより、後続する新たな研究課題の創出・発展に貢献し有意な知見を与えられた。また、本研究開発の中核を担う論文に対し谷萩隆嗣記念特別賞(信号処理学会)に選出されるなど高い評価を受けた。

謝 辞

A part of this work was supported by JSPS KAKENHI Grant Number JP19K20261.

研究成果

  1. 森慎太郎, “コンテンツ指向型無線センサネットワークにおけるセキュアキャッシング手法に対するテストベッドの試作と基礎評価,” 信学技報 SeMI研究会, vol. 119, no. 110, pp. 203–206, Osaka, Japan, July 2019.
  2. S. Mori, “(Invited) Secure and Effective Caching Scheme using Blockchain for Information-centric Wireless Sensor Networks,” Proc. Asia Pacific Society for Computing and Information Technology (APSCIT) 2019 Annual Meeting, 1 page, Sapporo, Japan, July 2019.
  3. 森慎太郎, “(依頼講演) コンテンツ指向型センサネットワークにおける高効率・セキュアキャッシング手法の研究,” 信学技報 SeMI研究会, vol. 119, no. 266, pp. 51–53, Tokyo, Japan, Nov. 2019.
  4. S. Mori, “Caching Data Protection Scheme for Information-Centric Wireless Sensor Networks,” Proc. IARIA the 19th Int. Conf. Networks (ICN 2020), pp. 50–54, Lisbon, Portugal, Feb. 2020.
  5. S. Mori, “A Fundamental Analysis of Caching Data Protection Scheme using Light-weight Blockchain and Hashchain for Information-centric WSNs,” Proc. 2nd Conf. Blockchain Research & Applications for Innovative Networks and Services (BRAINS 2020), pp. 200–201, Paris, France, Sept. 2020.
  6. S. Mori, “Secure Caching Scheme using Blockchain for Unmanned Aerial Vehicle-assisted Information-Centric Wireless Sensor Networks,” J. Signal Process., vol. 26, no. 1, pp. 21–31, Jan. 2022.
  7. S. Mori, “Data Collection Scheme using Erasure Code and Cooperative Communication for Deployment of Smart Cities in Information-centric Wireless Sensor Networks,” Int. J. Advances in Networks and Services, vol. 14, no. 3&4, pp. 54–64, Dec. 2021.
  8. S. Mori, “Prototype Development of River Velocimetry using Visual Particle Image Velocimetry for Smart Cities and Disaster Area Networks,” Proc. 20th Int. Sympo. Commun. and Info. Tech. (ISCIT 2021), pp. 169–171, Tottori, Japan, Oct. 2021. [DOI][IEEE Xplore]
  9. S. Mori, “A Fundamental Analysis of an Erase Code-enabled Data Caching Scheme for Future UAV-IC-WSNs,” Proc. IARIA the 20th Int. Conf. Networks (ICN 2021), pp. 8–12, Porto, Portugal, Apr. 2021.
  10. S. Mori, as a panelist in “P1: Communications beyond the Thinking (spatial, terrestrial, speed, 5G/6G, streaming, high data processing, protocols, etc.),” and entitled “Survey on unmanned aerial vehicle-assisted information-centric wireless sensor networks for smart city applications,” Proc. IARIA the 20 th Int. Conf. Networks (ICN 2021), Porto, Portugal (Hybrid), Apr. 2021.
  11. 森慎太郎, “情報指向無線センサネットワークにおいてブロックチェーンを用いてセキュアキャッシングを実現するための一検討,” 信学技報 SeMI研究会, vol. 121, no. 105, pp. 35–38, Online, July 2021.
  12. 森慎太郎, “(チュートリアル) 情報指向無線センサネットワークに関する一研究,” 信学総大 2022, 4 pages, Online, Mar. 2022.
  13. S. Mori, “A Cooperative and Coded Communication Scheme using Network Coding and Constructive Interference for Information-Centric Wireless Sensor Networks,” Int. J. Advances in Networks and Services, vol. 15, no. 3&4, pp. 54–61, Dec. 2022.
  14. 森慎太郎, “情報指向無線センサネットワークのテストベッド試作と基礎評価,” 信学技報 SeMI研究会, vol. 122, no. 108, pp. 70–73, Kanazawa, Japan, July 2022.
  15. 森慎太郎, “(チュートリアル) グリーン情報指向無線センサネットワーク実現のための高効率・省電力化に関する一検討,” 信学総大 2023, 2 pages, Saitama, Japan, Mar. 2022.
  16. S. Mori, “(Keynote) Information-Centric Wireless Sensor Network: A Study and a Survey,” Proc. IARIA Congress 2022, Nice, France, July 2022. (non peer-review)
  17. S. Mori, “A Study on Zero-touch-design Information-centric Wireless Sensor Networks,” Proc. IARIA the 22th Int. Conf. Networks (ICN 2023), pp. 7–9, Venice, Italy, Apr. 2023. [Thinkmind (online)] (Best paper award)